「メッキ」という言葉を聞いたことがある人はほとんどだと思いますが、どんな効果があり、現実では何の役立っているのか理解している人は少ないと思います。
メッキは私達の身の回りの製品にたくさん活用されており、現代の工業においても、とても重要な技術です。
メッキとは、固体の表面に金属の膜を張る技術のことです。
メッキ加工をすると、金属板をピカピカにすることができます。
引用:YouTube 溶融亜鉛鍍金協会
メッキは約3500年前から既に存在していたと言われ、長い歴史を持ちます。
古くは日本ではお寺の建立の際に金メッキが施されていました。
現在ではスマートフォンやPC、ディスプレイ、自動車、ドアノブや蛇口、楽器、アクセサリーなど、紹介しきれないほどメッキ加工が施された製品がたくさんあります。
そんなメッキの効果や種類について、紹介していきます。
メッキ加工の効果・用途
メッキ加工が様々な製品に使われている理由は、メリットがたくさんあるからなのですが、主に5つに分けて確認していきましょう。
1. 見た目を輝かせて綺麗にし、錆を防止する

引用: Histoire様
めっきをすることの利点の一つとして、このように見た目が綺麗になります。
しかも、綺麗になるだけではありません。
金属のアクセサリーの場合、全てを金属にすると、値段が高くなり、重量が重くなってしまいます。
高級感を出すために、全て金属の製品を身につけるということはあるとは思いますが、普段使いしにくくなってしまいます。
めっきをすると、高級感を出しながらも重量を抑えることができます。
また、メッキ加工をすると錆びにくくなります。
こちらも重要な点です。
錆びてしまうと見た目の点でも良くないですし、材料の性質が変わってしまい、機能が果たせなくなります。
2. 電気をコントロールする
たくさんの部品が入っている電子回路では、電流の細かいコントロールが必要です。小型化が進み、細かいパーツがたくさん入っているスマートフォンでは薄く膜を張る技術が不可欠になります。
スマートフォンの中にある細かい部品をつなぐ基板では、この薄い膜が電線の役割を果たすからです。
スマホ以外にも、接続部分に薄い膜を使うことで小型化を実現しています。
銅でメッキが行われたあと、錆びて電気が通りにくくなることを防ぐため、更に金メッキが施されています。
画像引用: サイバーナビ株式会社様サイト @engineer メテック株式会社様ページ
3. 磁気をコントロールする
パソコン内部のハードディスク内では円盤と針が動いています。動画引用: YouTube - HDの仕組み 上村工業株式会社様
円盤と針の先は磁性を持っていて、円盤のとても小さい部分のN極S極を切り替えます。
めっきを行うことで、N極S極を切り替える部分を作ることができます。
また、パソコン外部からの磁気が内部に影響を及ぼさないようにパソコン筐体の内面にめっきが施されています。
4. 物理特性をコントロールする
メッキを行うことで、表面を滑らかにし、摩耗に強くし、熱に強くすることができます。ハードディスクでは、円盤と針の距離が10nm前後と非常に距離が近いため、表面に凸凹があると、精密に動かず故障の原因になります。
また、部品同士が接触した場合の損傷を抑えるため表面の硬度が要求されます。
ハードディスク以外にも、歯車やエンジンなどの機械部品や自動車部品は摩耗するため、部品としての強度を上げるためにメッキが行われます。
また、自動車や航空機の部品は高温に晒される箇所が多く、耐熱性の強いメッキも施されています。
5. 抗菌作用・薬品に強くする・光の反射を抑える
金属にもそれぞれ性質があり、特定の用途でメッキを行います。例えば、銀や金など一部の金属には、抗菌作用があります。
この性質を活かして、コップやドアノプにメッキを施し、抗菌作用を備えることができます。
また、金属には、それぞれ薬品との相性があります。
プラントやハイブリット車のエンジンなど、使われる薬品に強い金属のメッキが施されます。
金属の光沢や色に着目してメッキが使用されることもあります。
例えば、カメラは内部で使う部品からは光の反射が起きてほしくないので、黒い色のメッキを施します。
自動車やバイクにも、眩しくなりにくいようにメッキを使います。
他にもガラスやプラスチックの表面に膜を張ることで、反射をコントロールしたり透過光を増やすことができます。
メッキの種類を見ていこう!
メッキには、液体に浸す湿式メッキと真空を利用する乾式メッキがあります。湿式メッキ
湿式メッキにも分類ができ、大別すると電解メッキと無電解メッキ、溶融メッキがあります。1. 電解メッキ
電解メッキは、膜として使う金属の水溶液に直流を流します。すると金属イオンが固体上に移動し、析出します。
これを利用して、皮膜を表面に作ります。
2. 無電解メッキ
無電解メッキは、化学メッキとも呼ばれ、主として置換メッキと自己触媒メッキ、非触媒化学メッキが挙げられます。
置換メッキでは、イオンになりやすい金属をイオンになりにくい金属の水溶液に浸します。
すると、イオンになりやすい金属の表面が溶け、代わりにイオンになりにくい金属が表面に析出します。
表面の金属成分が膜を張る金属に置き換わるので、置換メッキと呼ばれます。
自己触媒メッキでは、金属を触媒として見立てます。
触媒は化学反応を起こしやすくするものです。
水溶液に金属を投下すると、金属は触媒として働き、金属付近でのみ反応が起こりやすくなります。
金属付近でのみ反応が起こりやすくなっているため、膜として使う金属を含む水溶液で同様のことを行うと金属表面に金属の膜ができます。
自己触媒メッキでは、プラスチックに対してメッキを行うことも可能です。
プラスチック自身は特に水溶液にいれても触媒とはならないですが、パラジウムという金属を表面に吸着させると、パラジウムが触媒となって水溶液の反応が始まり膜が形成されます。
置換メッキは、表面が覆われれば反応が止まりますが、自己触媒メッキは触媒活性がある限り反応が続いて被膜が厚くなっていきます。
析出した金属は新たに触媒になるので、理論上は厚みに制限はありません。
非触媒化学メッキは触媒が存在せず、化学反応を利用したメッキ法になります。
代表的なものは銀鏡反応を利用したもので、ガラスなどの材質に利用されます。
動画の中では、試験管の内面に付着していますが、自己触媒メッキと違い溶液に接触している面全てに銀が析出します。
3. 溶融メッキ
高温で溶かした金属に固体を投入させ、表面に金属をまとわせます。膜が厚いため、耐食性が高いことが特徴です。
乾式メッキ
湿式メッキでも電気や化学反応がでてきて難しいところもありますが、乾式メッキは更にイメージしづらい要素がでてきます。その理由は、真空、プラズマを始め、身の回りには普段感じにくい環境を作り出すからです。
乾式メッキを大別すると、物理蒸着法と化学蒸着法という分野に分けられます。
2つの違いは、おおまかにいえば以下のとおりです。
「特別な状態を生み出したあと、直接薄膜の材料を膜を張る方法」か「化学反応を誘発させて化学反応により膜を形成方法」です。
乾式メッキにも様々な手法がありますが、本記事ではこの2つの代表的な手法のみ説明します。
物理蒸着法(PVD)
物理気相成長とも呼ばれます。熱やプラズマのエネルギーで膜の原料となる金属を気化し、基板上で薄膜化する方法です。
この物理蒸着法(PVD)の中の真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングという手法について説明します。
1. 真空蒸着
鍋で煮物を作るとき、蓋には水滴がくっついてますよね。火に近いところでは、水蒸気が表れ、多少温度の低い蓋で液体となりくっついています。
真空蒸着でやっていることも似ています。
画像引用:尾池工業株式会社様
素材に付ける金属を気体になるまで温め、気体にしたあと基板上で固体として出現させます。
金属は気体になるまで、とても温度を高くする必要があります。
排気をしながら、真空に近づけることで気体になるまでの温度を低くしています。
空気の薄い山の上では、沸騰したお湯でも温度が低くなってしまうことと同じです。
とはいえ、金属は気体になりにくいため、真空に近づけても約1,000℃の熱が必要になります。
金属を温める方法には、以下のような方法があります。
1. 電気回路の抵抗で熱を利用する
2. 高速な電子をあてて運動を熱に変える
3. IHと同じ原理
4. 光のエネルギーを利用する
よく使われるものは、2の高速な電子をあてる方法です。
真空蒸着は温めたものを素材に付加するため、素材に対して優しく、成膜スピードが速い利点がありますが、付着力が弱いという欠点があります。
付着力を補うため、イオンアシストと呼ばれる手法が用いられます。
2. イオンプレーティング
基本は、真空蒸着と似ていますが、気体化させた金属を更にイオン化(プラズマ化)させることで違いがあります。下記の例では真空蒸着の装置に加えて、高周波電源が間に加わっています。

引用: 東邦化研株式会社様
プラズマについて簡単に説明します
更に温度が上昇すると、原子や分子から、電子が離れていき、イオンとして存在する状況が発生します。

引用: 株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ様
この現象は、オーロラや雷として現れます。
雷では雲から地面に向けて電子が送り込まれプラズマ化した通り道を下っていきます。
プラスの電荷の大地と接触するとき、高圧の電流が発生して光ります。
少々脱線しましたが、イオンプレーティングではイオン化することが重要なポイントになります。
イオン化したことで、電気的に引き寄せられる力が生まれるため、真空蒸着よりも素材にくっつく力が生まれます。
そうすると、膜として強くなります。
3. スパッタリング
スパッタ(sputter)とは、「跳ね飛ばす」という意味の英語から来た言葉です。スパッタリング現象という現象があり、物質にイオン等を高速で衝突させることにより、分子が叩き出される現象を指します。
この現象を利用したものがスパッタリングと呼ばれる手法です。
スパッタリングでは、アルゴンなど不活性ガスを用います。
不活性ガスを電子化させて電気の力で加速させ、膜となる金属や金属化合物の塊ぶつけます。
すると、膜となる物質が弾けとび、素材にたどり着いてくっつきます。
不活性ガスを用い、蒸発させる過程がないため、膜となる物質が安定しており、合金など複数素材が混ざっている場合に使用されます。
化学蒸着法(CVD)
化学気相成長とも呼ばれます。化学反応を起こすことにより、膜を形成します。
そのため、真空蒸着などに比べて、高真空である必要はありません。
ガス状で原料を送り込み、熱やプラズマ、光などで反応を起こりやすくして反応させます。
個々の材料や具体的な反応については別の機械に説明します。
メッキで使われる金属
これまで大まかにメッキの手法や用途について説明してきました。次は、メッキに使用される金属を簡単に見ていきましょう。
銀
抗菌作用があり、食器などによく使われるため身近なメッキと言えます。また、銀鏡反応による、鏡の製造など綺麗に反射する性能も重宝されます。
電気抵抗の低さからコネクタなどの接触部にも使われます。
金
化学的に安定していて、抵抗も低くハンダ付けもしやすいため、電子機器などでもよく使われます。また、見た目の綺麗さから大仏や食器など古くから使われてきた素材です。
銅
電気伝導がよく、熱伝導もいい素材です。比較的安価なことで下地メッキとしてよく使われます。
、
すず
人体への影響が少ないので、缶詰などに使われます。防錆効果があり、電子部品を接続する部分でも使われます。
クロム
硬いため、ゴルフクラブの表面にも使用されます。硬く摩耗性が強いのでシャフトやバルブなど動きが多い機械部品にも使われます。
6価クロムは環境負荷のため問題視されており、3価クロムへの移行が進められています。
環境負荷が強い一方で、6価クロムについてはメッキにキズがついた際、6価クロムイオンが動くことで膜を自己修復する機能があり過去には重用されていました。
亜鉛メッキを施したあと、より防錆効果や硬い表面を形成されるため、後処理としても使われます。
ニッケル
合金となった際、配合比率で性質が代わり、多種多様な用途があります。硬い・滑らか・磁性がコントロールできるなど、活用する幅が広いことが特徴です。
ハードディスクドライブを作る際は主役といっても過言ではありません。
亜鉛メッキ
安価なため、鉄の防錆用途で現在でも多様されます。複合メッキ
金属と併せて、樹脂などを表面に析出させることができます。撥水性の点で用いられるなどです。
メッキ加工の前処理
最後にメッキを施す前に行われる処理について触れます。ここまで用途や膜を張るそのときの手法などを見てきました。
しかし、実際に膜を張るときには、材料が理想的な状態で揃ってなくては上手く張り付きません。
なので、前処理はメッキ加工を行う上で成否が分かれるほど重要な処理なのです。
その膜を張る阻害となる物質がありますので、それを洗浄する処理が必要となります。
メッキ加工の阻害物質
1. 鉱物油、動植物油などの油
工場から鉄板など原料を仕入れた際、表面に油が付着していることが多くなります。この油は、金属を切断する際の潤滑性を上げる、錆を防ぐ目的で使用され材料に付着しています。
2. 金属酸化物
切断、溶接などが行われた際、高温かつ金属がむき出しの状態の部分ができます。この部分は酸化しやすく、導電性などの都合上メッキの際にはうまくメッキが行われない要因になってしまうため、取り除く必要があります。
3. 樹脂、有機化学薬品など
仕入れたものがコーティングされていることもあります。また、化学薬品で処理されている場合残留物が残っている場合もあります。
4. その他、金属の粉、ほこり、塩類、水、湿気など
金属加工の現場では、機械に付着していた金属の粉や外部からのほこり、人間の汗、雨など微細な汚れが付着していることがあります。メッキ加工前の洗浄処理
これらの阻害要因を落とすため、洗浄が行われます。各工程間で水洗いをすることで、工程間で薬品の影響が残らないようにします。
これらの工程はメッキする素材や状況に応じて全てが行われるわけではありません。
また、使われる薬品などは、メッキする材質に合わせて変わってきます。
参考: YouTube - 有限会社 堀鍍金工業所様
1. 脱脂洗浄
界面活性剤や苛性ソーダの入った溶液に付けます。界面活性剤が油と素材に入り込むことで油や一部の金属の除去ができます。
2. 酸洗い・酸電解洗浄
酸化物を除去して清浄な面を作り出し、良好なメッキ加工が行えるようにします。酸洗いと酸電解は別工程ですが、材質やコストとの相談で片方もしくは両方行われます。
酸洗いでは、塩酸・硫酸に添加剤を混ぜた薬品を使い、酸化物の除去を行います。
酸電解は、濃硫酸に添加物を加えた溶液中で素材に電流を流し、酸化物・油の除去を行います。
酸洗い・酸電解を行うと素材に水素が入り込み脆くなるので、加熱による脱水素処理が後に行われることがあります。
3. 電解洗浄
洗浄液に浸し、電気を流して行います。素材を陰極か陽極で電気を流した場合で、効果に差があります。
素材を陰極にした場合、水素ガスが発生します。
洗浄力が高い利点がありますが、素材に水素が入り込み脆くなる、溶液に不純物が混じった場合に表面に析出してしまうなど欠点があります。
素材を陽極にした場合、酸素が発生します。
素材によっては酸化物が生成されたり、溶液に溶ける恐れがあります。酸洗いや酸電解で酸が強すぎた場合にでる不純物を取り除く効果があり、有機物を除去します。
また、素材が溶出することにより表面に凸凹が生まれ、メッキがつきやすくなります。
陽極で洗浄をした場合は、再び酸洗を行う必要があります。
これら2つの方法では、それぞれ長所短所があります。
2つとも組み合わせて洗浄を行うこともあります。
さいごに
めっきの効果・用途から種類についてを説明しました。めっきの種類には、湿式メッキと乾式メッキという方法の種別だけでなく、めっきに使われる素材による種別もあります。
そちらはまた後日詳しく説明していきます。